【論文解説】中央銀行の事前発表漂流とは?BoE・BoJ・SNBにみる市場の先回り現象

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中央銀行の事前発表漂流:市場は本当に先に動くのか?

今回は、論文
Pre-Announcement Drift for BoE, BoJ, SNB: Do Markets Move Before the Word Is Out?
(英中銀・日銀・スイス中銀における発表前ドリフト:情報公開前に市場は動くのか?)
を分かりやすく解説・要約しました。

出典元:SSRN(2025/8/12掲載)

1. はじめに ― なぜ注目されるのか

株式市場では、中央銀行の政策発表が大きなインパクトを与えることは周知の事実です。しかし、実際には「発表の前から市場がすでに動いているのではないか?」という疑問が存在します。
この研究(Radovan Vojtko & Cyril Dujava, 2025)は、英国銀行(BoE)、日本銀行(BoJ)、スイス国立銀行(SNB)の政策発表に焦点を当て、市場が事前にどのような動きを示すのかを分析しました。


2. 研究の背景

過去の研究では、FRB(米国連邦準備制度)やECB(欧州中央銀行)の政策発表前に「株式市場がすでに織り込み始めている」現象が観察されています。
今回の論文は、欧米以外の中央銀行に対象を広げ、次の特徴を持つ市場に着目しました。

  • 英国銀行(BoE):金利政策が為替市場と強く連動

  • 日本銀行(BoJ):非伝統的政策(量的緩和やマイナス金利)を実施

  • スイス国立銀行(SNB):為替介入の影響が大きい

これらの政策が株価やETFに与える影響を調べることで、事前発表漂流(pre-announcement drift)が国際的に共通する現象かどうかを検証しています。


3. データと手法

  • 対象データ:iShares MSCI Japan ETF、iShares MSCI Switzerland ETF、iShares MSCI United Kingdom ETF

  • 期間:2010年12月13日 ~ 2025年5月

  • 分析対象:各中央銀行の金融政策発表(利上げ、利下げ、量的緩和など)

  • 手法:発表日前後の株価リターンを統計的に比較し、「事前に有意な価格変動があるか」を検証


4. 実証結果

  • 事前発表漂流の存在
    BoE、BoJ、SNB いずれのケースでも、政策発表直前の数日間に株式市場に有意な動きが確認されました。

  • 国ごとの差

    • BoE(英国):金利発表の影響が強く、事前に為替市場と株式市場が動く傾向

    • BoJ(日本):量的緩和など非伝統的政策の場合、株式市場での漂流効果が顕著

    • SNB(スイス):為替介入と連動し、株価も事前に動きやすい

  • 統計的有意性
    これらの事前発表効果は偶然ではなく、市場マイクロ構造に組み込まれた「予測メカニズム」として機能している可能性が示されました。


5. 投資家・実務への示唆

  • イベント投資の戦略化
    中央銀行の「発表当日」だけでなく「数日前の漂流現象」を利用することで、イベントドリブン投資戦略の精度が向上。

  • リスク管理への応用
    発表直前に市場が動くことを想定すれば、ポジション調整やヘッジを早めに行う戦略が有効。

  • クオンツモデル強化
    事前発表漂流を変数に組み込むことで、量的取引モデル(アルゴリズム取引)の予測力が高まる可能性。


6. 限界と今後の課題

  • 政策効果は市場ごとに異なるため、汎用的に使えるかは未検証

  • ETFを通じたデータ分析であり、個別株や債券市場での影響は今後の課題

  • 「情報リーク」なのか「市場予測」なのか、因果の解明はまだ不十分


まとめ

本研究は、BoE・BoJ・SNBにおいても「発表前に市場が動き始める」事前発表漂流の存在を確認しました。
投資家にとっては、政策発表当日だけでなく、その数日前の市場のシグナルを読み解くことが、今後ますます重要になるでしょう。

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