【論文解説】株価はニュースで動かない─VWAPと流動性で読むリクイディティ駆動モデル徹底解説

株価の動きは「ニュース」ではなく「流動性」で決まる──
本記事では、SSRN掲載の最新論文「Liquidity-Driven Price Action(流動性駆動モデル)」をもとに、
VWAP・出来高・リクイディティゾーンを組み合わせて大口投資家の呼吸を読む手法を解説します。

テクニカル指標では見えない「流動性の偏り」を可視化することで、
デイトレ・スイング双方で勝てる価格帯を見抜く実践フレームワークが見えてきます。

論文:Liquidity-Driven Price Action: A Model for Interpreting Market Behaviour
(流動性に基づく価格変動モデル:市場行動の解釈枠組み)

出典元:SSRN(2025/8/12掲載)

リクイディティ駆動価格アクション:市場行動を読み解く新モデルと投資戦略への応用

1. はじめに ― 価格はニュースではなく「流動性」で動く

株価を動かす本質はニュースではない。
「どの価格帯に、どれだけの注文が溜まっているか」──それが市場を動かす力です。

従来の株価分析は、移動平均線やRSI、ボリンジャーバンドなどの指標を利用してきました。
しかし近年は、「価格そのものの動き=プライスアクション」に注目が集まっています。

本研究が示す「リクイディティ駆動モデル(Liquidity-Driven Model)」は、

  • 大口注文が集中するゾーン(リクイディティゾーン)

  • VWAP(出来高加重平均価格)

  • T2モメンタム(独自の短期モメンタム指標)

を組み合わせ、機関投資家や大口トレーダーの動きを反映した市場行動の解釈を試みたものです。


2. 背景 ― なぜリクイディティゾーンが重要か

  • 機関投資家は「まとめて売買」するため、価格が過去の高値/安値に近づくと注文が集中する

  • この集中が「一時的な壁」や「急なブレイク」のトリガーとなる

  • 個人投資家にとっては「大口の呼吸」を読むための重要な手掛かり

リクイディティモデルは、こうした市場心理と注文構造を定量化することで、勝ちやすい場面を切り取ることを狙っています。

3. モデルの仕組み

ステップ1:リクイディティゾーンの特定

  • 前回の高値・安値

  • 出来高が急増した価格帯

  • VWAPに近い水準

ステップ2:技術指標との組み合わせ

  • VWAP:当日の「平均取引コスト」。価格がVWAPを超えるかどうかは、大口投資家が損益どちらに傾いているかを示す

  • Pivot Point/サポレジ:短期反転の候補

  • T2モメンタム:急激な勢いを数値化し、エントリー判断に利用

ステップ3:売買判断ロジック

買いサイン例
  • 価格がリクイディティゾーンに接触

  • VWAPを上抜け

  • RSIやT2が強気シグナル

売りサイン例
  • 価格がリクイディティゾーン上で反転

  • VWAP割れ

  • T2が急低下


4. 実証結果のポイント

検証対象:NSE(インド証券取引所)の主要銘柄

確認された傾向

  • リクイディティゾーン付近での価格反応が有意に高い

  • VWAP+T2モメンタムを組み合わせると「ダマシシグナル」が減少

  • デイトレでもスイングでも有効性を維持


5. 投資家への実務的示唆

デイトレード応用

  • 「リクイディティゾーン+VWAP」を当日の指標に設定

例:VWAP上抜け+出来高増 → ロングエントリー

スイングトレード応用

  • 小型株や高ボラ株で「リクイディティゾーン反発」を数日スパンで狙う

  • 損切りはリクイディティゾーン下抜け、利確は次のサポレジライン

アルゴリズム取引応用

  • リクイディティゾーンを数値化してバックテスト可能

  • 「リクイディティ薄いゾーン」は取引回避フィルタとして利用できる


6. 実務応用 ― 日本株・米国株での使い方

デイトレード戦略(日本株)

  • 前日高値・安値+出来高急増ゾーンを「リクイディティゾーン」として設定

  • 寄り付き後、VWAPを上抜けたタイミングでエントリー

  • 出来高バーが増加している場合、短期上昇の勢い(T2)を確認

  • VWAP割れ=即撤退、ゾーン下抜けで損切り徹底

この戦略は特にマザーズ/グロース市場の中小型株で有効。
個人投資家の売買が板に反映されやすく、リクイディティゾーンの視覚的判定がしやすいためです。

 スイングトレード戦略(2〜5日)

  • 高ボラ銘柄で、直近リクイディティゾーン反発後の2本目を狙う

  • 利確は次のサポレジ到達時(リスク対リワード=1:2が理想)

  • 出来高が減少する局面では仕掛けず、「流動性回復」を待つ

 米国株・大型株への応用

米国市場では、流動性が高いためVWAP基準の反転パターンが有効。
特にFOMC前後や決算発表時の「流動性空白(gap liquidity)」を観測し、VWAP再接触=短期の戻りポイントとして利用できます。


7. 日本市場での注意点とモデルの限界 ― 板構造の違いと実務上の限界

買い条件

  1. 前日高値付近で出来高急増

  2. 当日VWAPを上抜け

  3. RSI 40〜60 → 中立圏から上昇中

売り条件(利益確定)

  • 当日高値更新後にVWAP接触で半分利確

  • サポレジライン到達で全利確

損切り条件

  • エントリー後にVWAP割れ(即撤退)

また、日本市場は海外勢が寄与する割合が高いため、流動性のタイムゾーン変動(昼休み・欧州開場前後)にも注意が必要です。

板構造とデータ特性への注意

  • 東証は約定単位が細かく、VWAPの反応が遅れやすい。
     → 5分足VWAPよりも1分足VWAPを基準にした方が機能的。

  • 出来高が少ない銘柄ではリクイディティゾーンが形成されにくい。
     → 目安は「日出来高10万株以上」。それ以下は誤シグナルが多発。

  • 寄り付き直後(9:00〜9:10)の乱高下ではVWAPの信頼性が低い。
     → 初動5分を除外し、VWAPが安定する9:15以降を基準にする。


 流動性のタイムゾーン変動

日本市場は海外投資家の影響が大きく、流動性は時間帯によって明確に変化します。

  • 昼休み(11:30〜12:30)は流動性が急減

  • 欧州勢参入(15:00前後)で再び板が厚くなる

このため、「時間帯ごとの流動性リズム」を意識した売買が有効です。


モデルの限界

  • 出来高が少ない銘柄では機能しづらい

  • 寄り付き直後やイベント直後はノイズが増える

  • アルゴ化する場合、VWAP算出の遅延や板厚の扱いが課題

それでも、VWAPとリクイディティゾーンを組み合わせることで、
相場の構造的ゆがみを可視化する有効なアプローチであることは間違いありません。

関連研究
板の厚みや約定単位(ティックサイズ)がどのように株価変動に影響するかは、
ティックサイズ変更が株価クラッシュリスクに与える影響
の研究でも詳しく検証されています。

⇒ ティックサイズ(最小値幅)が広がると、小型株では「板が厚くなり下落耐性が上がる」ことが示唆されています。


9. まとめ

「リクイディティ駆動価格アクションモデル」は、価格の動きを心理ではなく構造で捉える新しい視点です。
市場参加者の行動心理=注文集中ゾーンを基盤に、流動性の偏りから相場の呼吸を読み取ります。

  • デイトレでは「VWAP+リクイディティゾーン」で勝負ポイントを特定

  • スイングでは「反転ゾーン」を基準にリスクリワードを改善

  • アルゴでは「ノイズ相場の回避フィルタ」として活用可能

万能ではないものの、移動平均やRSIなど既存のテクニカルと併用することで、リスク調整後リターンの改善につながる有効な実務ツールになると考えられます。

この3点を理解すれば、相場は偶然ではなく構造として読めるようになります。
デイトレでもスイングでも、まず見るべきはニュースではなく流動性
これが本論文の伝える、最も実務的で本質的なメッセージです。

関連する論文解説をもっと読みたい方は、[投資家のための最新研究論文まとめ] をチェックしてみてください。

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