【論文解説】アクティブ型運用の強みと限界 ― 株の概念選択が示す投資スキルの実態

論文:Are Active Mutual Fund Managers Skilled in Picking Stock Concepts?
(アクティブ運用の投資信託マネージャーは、株式テーマの選択に熟練しているのか?)
を分かりやすく解説・要約しました。

出典元:SSRN(2024/11/7掲載)

DMM FX

【論文解説】アクティブ型ファンドマネージャーは本当に株の選択に優れているのか? ― 中国市場データからの新証拠

1. はじめに ― 永遠のテーマ「アクティブ vs. パッシブ」

投資の世界では長らく「アクティブファンドは市場平均を上回れるのか?」という論争が続いてきました。
効率的市場仮説(EMH)によれば、すべての情報はすでに価格に織り込まれているため、ファンドマネージャーが市場平均を超えるのは難しいとされます。

しかし、近年の研究は必ずしもそうとは言い切れないことを示唆しています。今回取り上げる論文 「Are Active Mutual Fund Managers Skilled in Picking Stock Concepts?」(SSRN, 2024/11/07掲載)は、中国市場を対象に、ファンドマネージャーが「株の概念(Stock Concepts)」をどう選び、そのスキルがリターンに結びついているのかを分析しました。


2. 株の「概念」とは何か?

本研究がユニークなのは、「株の概念(Stock Concepts)」 という枠組みで投資スキルを評価している点です。
概念とは、単なる銘柄単位の分析ではなく、テーマ・特徴・トレンドに基づいてグループ化された株の集合を指します。

  • AI関連株:人工知能の成長を背景に集められるグループ

  • 環境セクター株:グリーン政策やエネルギー転換に関連

  • 成長株群:売上や利益の伸び率が高い企業を束ねた集合

  • 国有企業関連株:政策や国策に直結する企業群

こうした「概念」に注目することで、個別銘柄ごとの当たり外れを超えて、投資アイデアそのものの質 を評価できるのがポイントです。


3. 研究の手法とデータ

  • 市場対象:中国株式市場

  • 分析データ:アクティブ型ミューチュアルファンドの取引履歴

  • 評価方法:ファンドマネージャーが選んだ「株概念」とその後のリターンを追跡

  • 比較枠組み

    • プライベート情報(内部情報)による優位性を排除

    • 単純なモメンタム効果(過去の株価トレンドの継続)も除外

    • 純粋に「概念選択力」 の巧拙で成果を測定

これにより、「彼らは情報優位で勝っているのか?それとも本当に概念を見抜く力があるのか?」を明確に切り分けています。


4. 主な研究結果

成長株でスキルを発揮
ファンドマネージャーは、特に成長株を中心とした概念を選んだ場合に、明確なアウトパフォーマンスを実現しました。これは「テーマ投資」で成果を上げる力があることを示しています。

プライベート情報では説明できない
成果は「内部情報の有無」では説明されませんでした。つまり、彼らの優位性は市場テーマを的確に選ぶスキルに由来しているといえます。

概念選択の利益は時間とともに減少
最初は市場より高いリターンを生みますが、時間が経つにつれて他の投資家に模倣され、市場に織り込まれていきます。これは「アクティブの超過リターンは永続しにくい」という従来の知見とも整合的です。

アナリストカバレッジとの関係
アナリストによる情報カバレッジが厚い領域ほど、マネージャーのスキルが際立ちました。これは情報が多い分、解釈の質で差がつきやすいことを示しています。逆に言えば、情報が乏しい市場よりも、情報が豊富で競争の激しい市場でこそ「解釈力」が問われる、という実務的な示唆につながります。

→こうして見ると、この研究は「アクティブファンドの強みは、個別銘柄当てではなく市場テーマを見抜く力にある」という点を実証的に裏付けているといえます。

5. 投資家への実務的示唆

1. 成長株テーマに注目する際のヒント

研究結果から、アクティブファンドは特に 成長株を含むテーマ(概念) を選ぶときにスキルを発揮していることがわかります。
これは個人投資家にとって、単に「人気銘柄」を追うのではなく、テーマ全体に資金が流れ込むかどうか を意識する重要性を示しています。

→例:AI・再生可能エネルギー・EV・半導体などのテーマ株は、個別銘柄の当たり外れよりも「概念全体」で動く傾向がある。


2. アウトパフォーマンスの「寿命」を理解する

概念選択の超過リターンは、時間とともに市場に吸収され、薄れていく ことも明らかになりました。
つまり「早く気づく」ことが勝敗を分けるということです。

→ 実務的には:

  • テーマ株に投資する場合、 初期の段階で参加する ことがリターン最大化につながる。

  • 逆に、ニュースで大きく取り上げられた後や、投資信託が大量に参入した後では、リターンが既に織り込まれている可能性が高い。


3. 情報量が多い市場で差がつく

アナリストカバレッジが厚い銘柄群で、ファンドマネージャーのスキルがより顕著に表れた点は、情報が多い市場ほど「解釈力」で差がつく ことを意味します。

→ 個人投資家向けの示唆:

  • 誰でもアクセスできる情報を「どう読むか」がカギになる。

  • 企業決算・業界レポート・政策動向などを単なる事実として読むのではなく、市場がどう受け止めるか を考える癖をつけるべき。


4. アクティブ運用をどう使うか?

この研究は、アクティブファンドの「株概念を見抜くスキル」を評価したものですが、投資家にとっての問いは「アクティブに投資する価値があるかどうか」です。

  • 長期的に市場平均(インデックス)を超えるのは難しい

  • ただし、テーマ初期の段階や高成長株への集中投資では、アクティブの強みが発揮される

実務的には:

  • ポートフォリオの中に インデックス(安定)+アクティブ(テーマ探索) を組み合わせる「ハイブリッド運用」が有効。
  • 特に中国市場のように情報の偏りやテーマの循環が早い市場では、アクティブ運用が光る場面が多い。

6. 用語解説

アクティブファンド(Active Fund)
市場平均(インデックス)に連動するのではなく、ファンドマネージャーが銘柄やテーマを選んで運用する投資信託。
市場平均を上回るリターンを狙う一方、手数料が高めで、成果は運用者のスキルに大きく依存します。

パッシブファンド(Passive Fund)
TOPIXやS&P500などの指数(インデックス)に連動するように設計された投資信託。市場平均を狙うシンプルな運用で、手数料が低いのが特徴。長期投資や初心者に人気があります。

ファンドマネージャー(Fund Manager)
投資信託の運用責任者。どの銘柄やテーマに投資するかを決め、売買のタイミングを判断します。投
資家から預かった資金を運用し、リターンを最大化する役割を持つ「投資のプロ」。

モメンタム(Momentum)
「株価の勢い」を意味する投資用語。過去に上昇している株はさらに上昇しやすく、下落している株はさらに下落しやすいという経験則。
短期トレンドを利用した戦略として知られます。

アナリストカバレッジ(Analyst Coverage)
証券会社やリサーチ会社のアナリストが、ある企業や業界について定期的に調査・レポートを出している状態。
カバレッジが厚い銘柄は情報が豊富で投資家の注目度も高く、逆にカバレッジが薄い銘柄は情報不足で価格変動が大きくなりやすい傾向があります。

まとめ

この研究は、アクティブファンドマネージャーが本当にスキルを持っているのか?という長年の疑問に対し、「銘柄当て」ではなく「テーマ選び」で成果を出している ことを実証しました。

  • 成長株概念を選んだときにアウトパフォーマンスが発揮される

  • 内部情報ではなく、投資アイデアの解釈力が差を生む

  • ただし超過リターンは時間とともに消えていく

  • 情報が豊富な市場でこそ、解釈力が活きる

→ 個人投資家にとっての実務的教訓は、テーマの初動を捉える力と、市場心理の読み解き を鍛えること。これがインデックスでは得られないリターンの源泉となるでしょう。
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